2015.12.21

All roads lead to Rome

というわけで
弊社社有林での作業道開設が11月の後半から再開し、寝ても起きても作業道のことを考え、悶々とする日々が始まりました。
先日も山を歩き今年度夏以降に掘削予定のルート決めをしたのですが、
途中写真のような雑木の尾根を
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ヘアピンカーブを駆使し山の上へ道を伸ばすに適切かどうかを考え、尾根勾配を測りながら登ったり降りたりした結果、その晩はその尾根が夢に出てくるという始末。
昨年度は東京美林倶楽部事業の初年度ということもあり、東京美林倶楽部の開始までにとにかく作業道を開設し、伐採、搬出、地拵えまでを完了させる必要がありました。感覚としては常に時間に追われている状況。今年はもう少し余裕を持って取り組みたいと思いながらも今年の初夏に予定していた掘削スケジュールは十分に確保できず、気づいたら今年も残り1週間。そんな状況ですが、年内及び来年も焦らず安全第一でいきたいと思います。
さて、作業道といってもピンとこない方もいらっしゃるかもしれません。
簡単に弊社社有林へ開設している作業道の基本的な目的や開設するにあたってのルールなどを説明したいと思います。
まずは目的。
作業道を入れる目的は中長期的な森林管理を容易にするため。作業道を使っての搬出はあくまでも搬出方法の一手段に過ぎません。檜原村のように急傾斜が多い山では架線など他の搬出方法が適しているケースも多々あると考えます。ただ、(ここからは個人的な感想)色々とある搬出方法の中でも作業道を用いた搬出が優れているなと感じる点は大きく2つあります。
①繰り返し使える
架線等での搬出は一度実施し、解体してしまえば終わりですが、作業道は一度正しく開設できれば(そこが難しい。。)、少ないメンテナンスで繰り返し使える(搬出及び森林管理に)という循環型産業である林業にとても適している。
②正しく使えば安全度向上
他の搬出方法と安全度を比べるのは難しいですが、傾斜で作業する状況を減らし、極力平らな作業道の上で作業できれば安全度は断然アップするのではないでしょうか。
というわけで作業道を開設する目的はあくまでも中長期的に森林の管理を安全且つ容易にする手段である。
では、どんな道を目指すのか?
基本理念として「壊れない道を作る」が大前提になり、実践するために以下2つのルールを守る必要があります。
①切り取り高を1.4m以内に収める
②水を分散して適切な箇所に排水する
作業道開設は基本的には山側を掘り、谷側に盛ることで道を作っていきます。山側の切り取りの高さを1.4m以内と定義することによって山へのダメージ(掘削することによって削り取られる土の量)を最小限にする。又、山に植わっている木の根が概ね1.4mまで地中に張っているため、根が山側の土を抑えてくれる限界が1.4mと考えられています。よって土砂崩れを防ぐために切り取りは低く設定し、根株の効力が効く高さまでとする。
②に関しては作業道開設前の山に雨が降ると山の中に降りおちた雨は自然と分散・拡散され、健全な山であれば緑のダムとして水は地下へ浸透していきます。作業道を掘ることによって、山を削り、山に傷をつけます。その傷へ雨が降ると雨水は表面を流れ、作業道の路盤へ流れ落ち、路盤の轍を伝って滑り台のように下方へ流れていきます。その水が流れてはいけない箇所(クボ地など)へ一点集中して流れ込むと地中に必要以上に水が溜まり、土砂崩れを引き起こします。水捌けの良い尾根地形箇所等に分散して排水することによって崩壊を未然に防ぐ。
①も②のルールを守ることによって山へのダメージを最小限に止め、土砂崩れ等の崩壊を起こさないようにするのであります。
 
作業道の構成は大きくわけて以下2種類になります。
「幹線」と「支線」
「幹線」は上下の移動を行ない、「支線」は左右への移動を行う道になります。
「幹線」は始点からとにかく上を目指す主線。縦断勾配を15%-20%と設定し、目的地へ達するための道。
「支線」は幹線の途中から等高線上に左右に伸びる道。
幹線と支線の両方を用いて山林内高密度路網を実現することになります。
 
作業道開設の手順についても少し触れると、
A)まずはルートを決める(事前調査、踏査)
B)決めたルートを元に粗道を掘り、ルートを確定する(粗道掘削)
C)粗道を規定の2.5m幅員を確保しながら仕上げていく
(幅員確保、法尻立ち上げ(必要に応じて木組み設置)、路盤整地、路面処理)
A)の段階では地形図(1/5000)、航空写真等を用意して事前の調査を行います。その際地形図を写真のように傾斜+地形によって色分けをします。
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緑色は土工のみ(切り取った土を谷側に盛り、転圧する)で道が開設できる箇所。黄色はなにかしらの構造物(丸太組等)が必要な箇所。赤色は布団カゴを使用するなどして大掛かりな構造物が必要になる箇所。
よって緑色のみで道が開設できればコスト的にも山へのダメージも最小限に抑えられます。ただ見ての通り、現実はなかなかそうはいきません。。またその際にヘアピンカーブが設置できそうな箇所にも円を描いて記しをつけておきます。
色塗りができたら今度は傾斜、地形を考慮した上で開設したいルートを机上にて設定し、地形図にルートを落とし込んでみる。ここまでが事前調査になります。
事前調査ができたら今度は机上で設定したルートを元に実際に山に入り縦断勾配を計りながらルートの設定を行う「踏査」を実施します。地形図にルートを描いた時点で概ね始点からどこへ作業道を伸ばしていきたいかが決まっているはずなので、今度は現地にて実際の設計する道の縦断勾配を計り、法尻を受ける地形はあるか、岩など道の開設を妨げる要因はないか、切り取りの高さは1.4m以内に収まるか等を確認しながら歩いていきます。弊社では踏査する際に開設予定ルートの路肩となる立木にピンクのテープを巻きつけています。
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このピンクテープを結んで道ができていくイメージ。
次に、ピンクテープを目安にB)の工程「粗道掘削」を開始します。
ここでは最小限の幅員で道を掘り進め、実際にこのルートに道を掘ることは可能かを確かめながら、土質を確認しながら進めていきます。
弊社では3トンのシャベルカーを使用して掘削を行っていますので車体幅が概ね1.6m。粗道の時点では1.6m+20% の1.9mほどの幅員で進めていくようにしています。
粗道掘削時点で必要に応じて支障となる木を伐採しながら進めていきますが、ここでも山へのダメージを最小限に抑えるために伐る木は必要最低限に留めることに注意しています。
粗道を掘り進めている写真。
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粗道がある程度掘り進めると今度は道を仕上げていく工程が始まりますが、長くなってきたので仕上げ工程からはまた次回にしたいと思います。次回は作業道への思いや目指すとこなどについても書きたいと思いますので、お楽しみに!。。?
 
吉田

この日記を書いた人

吉田 尚樹

吉田 尚樹

1978年生まれ。東京都杉並区出身。マカレスター大学文化人類学部卒(アメリカ)。外資コンサルティング会社に8年勤務後、「社会と自分にとって意義のある仕事」を求め、林業に転職。一家で檜原村へ移住。現在二児のパパ。

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