まるごと山開きトーク「森と銭湯」(ゲスト/小杉湯・平松祐介さん)
「東京チェンソーズのまるごと山開きvol.2 森の異文化交流会」。当日、メインとなったのが東京・高円寺の老舗銭湯・小杉湯の平松佑介さんを迎えてのトーク「森と銭湯」でした。
イベント終了後の参加者アンケートでも熱い反響が多数寄せられたお話をまとめましたので、当日参加できなかった方、また、もう一度振り返ってみたい方も、ぜひ!
「まるごと山開きvol.2」についてはこちら
小杉湯について
高円寺の街に溶け込んだ小杉湯。破風屋根造りの建物は2020年、国の登録有形文化財に登録(写真提供・小杉湯)
まずは小杉湯の基本情報ですーーー
小杉湯は1933年、東京・高円寺で創業。
名物の「ミルク風呂」をはじめとする、週替わり・日替わりのお風呂が特徴で、平日は1日500人、土日祝は900人〜1000人のお客様が訪れるという人気の銭湯です。
その6割が半径2kmの徒歩・自転車圏内の住人だそうで、訪れる頻度は週1回〜2回が多いとのこと。
年齢別では20代・30代の若い世代が全体の4割を占めるといいます。
現在は3代目に当たる平松佑介さんが経営の先頭に立ち、小杉湯がこの先50年、100年続くことを目指し、さまざまなことに取り組んでいます。
小杉湯2店舗目の「小杉湯原宿」 (写真提供・小杉湯)
そんな小杉湯は2024年4月、2号店となる店舗を東京・原宿の神宮前交差点の複合商業施設「東急プラザ原宿ハラカド」B1フロアにオープンしました。
「20年以上、銭湯がない街だった原宿だからこそ、毎日変わらず営業して、100年後も続く銭湯にしたい」と平松さんは話します。
情報と人が溢れる原宿という街に店舗を出すにあたって「素」という言葉をキーワードに設定し、また本物にこだわったという小杉湯原宿は、浴室の木桶や木椅子、木手桶、脱衣所のベンチに使う畳、待合室の机、椅子、各種タオルなどに各地の工芸品を取り入れています。
ほかにも、
・銭湯絵は高円寺と同じ80代の職人さんが描いた富士山…
・床もビニール製のタイルではなく、昔ながらの白いタイル…
・カランとシャワーヘッドも昔から愛用されてきたもの…
・脱衣室の床板も無垢の木で作ったフローリング…
という作り。
東京チェンソーズでも、休憩用の縁台や丸太のスツール、テーブル、棚などの家具を納品、使っていただいています。
今回のトーク「森と銭湯」では一見関連がなさそうに見える林業・東京チェンソーズと銭湯・小杉湯との繋がりを深掘り。そこから未来へ続くヒントを探ります。
森と銭湯の親和性
左が東京チェンソーズ・吉田、右が小杉湯・平松さん
吉田:今日のタイトルになっている「森と銭湯」ですが、一体、どんな関係があるのかと思った方も多いと思います。
僕はこれまで平松さんと何度かお話しさせていただいて、森と銭湯の親和性は高いと感じているのですが、まずはそのあたりからお話しできれば…
ポイント1 未来へ向けて新しいチャレンジを試みている
平松:似ているところ、共感できるところはいろいろありますが、事業という点から言うと、銭湯は生活を守る公衆衛生のインフラとして国などからの補助金があって、民間が行っている事業です。
元々は地域の名士と呼ばれる人たちが、地域のために始めたもので、東京都では2700軒くらいありましたが、内風呂の普及とともにその数を減らし、今は400軒くらいとなっています。
林業もかつては地域・地区ごとに生業として行われていましたが、外国産材の台頭や木材価格の低迷などの事情が重なり、働く人が減少。
産業としての活気を低下させてしまいましたが、土砂流失防止や水源涵養などの公益的機能を担うということで銭湯と同様、国等からの補助金が付いています。
しかし、小杉湯も東京チェンソーズもそれにのみ頼るのではなく、産業として持続できるよう、さまざまな取り組みに挑戦しています。
↓ こちらをご参照ください。
林業も銭湯も100年続く仕事にしたい。そんな両者の想いから生まれた「小杉湯」”東京チェンソーズの湯”
ポイント2 水を介して繋がる
吉田:あと、水の繋がりもありますね。高円寺の小杉湯さんは井戸で地下水を汲み上げてお風呂に使っています。
平松:僕のおじいちゃんの代に掘った井戸が今も使えていて、その地下水をかけ流しで水風呂に使っています。
お客様が皆さん言ってくれることが「綺麗であること、水が気持ちいい」の2つあるんですが、この水の気持ち良さは 山を大切に守ってくれている人たちがいるからこそと実感しています。
吉田:僕たちも森を維持をしていく上で、森だけでは完結できない、街との連携も大事だと考えています。
ただ、街に住んでいると森との繋がりを考えることはほぼないと思うのですが、流域という概念で両者の関わりを捉えると見えやすいのではと最近思っています。
流域とは、都道府県や市区町村といった人間が作った区分ではなく、降った雨が集まる水の流れ(河川)を基礎とした大地の範囲のこと。
最近は人の暮らしや自然の生態系を、この流域を単位に捉える考え方が広がっています。
ちなみに檜原村は多摩川流域ですが、高円寺は荒川流域。流域は違いますが、その上流部にある森とは密接な繋がりを持っています。
ポイント3 時間軸が長い
平松:これまでの 90年を超える歴史に加え、この先、4代目、5代目と続けていくことを考えると、自然に時間軸を意識して経営するようになりました。
チェンソーズさんと会って僕がすごく共感したのは、さっきの森と水の話もそうですが、時間軸の長さだったんですよ。
1つの木を植えた時に、大きくなって収穫できるまで50年以上かかるといいます。ということは、もしかしたら結果は自分たちが死んだ後に出るのかもしれないということ。
林業の長い時間軸に共感しました。
銭湯を信じて好きになると、お客さまが好きになってくれる
吉田:以前、ハラカドで打ち合わせをさせてもらった時、脱衣室のヒノキの床が整髪料などで汚れやすいと聞きました。平松さんは「本物の木を使っているので汚れが目立ちやすい。だから掃除して綺麗にするんだ」とお話しされていて、それがとても印象に残っています。
本物を取り扱うことに対して、どういう想いを持っているのでしょう?
平松:僕が一番に伝えたいと思っていることは、街の銭湯が社会に必要であることなんです。そのためにはやめないこと。高円寺が100年続くんだったら、原宿も100年続けるんだという想いなんです。
100年続く場所を作るとなると、 まずは銭湯を信じないとそもそもの事業がスタートしないし、場所を信じないと、お客様を信じないと続けることができない。
90年を超える歴史の中で僕は経営しているので、それがどれだけ大変なことかよくわかっています。そんな言葉だけでできるようなことではないわけです。
その覚悟を持ってやるとなった時、やはり銭湯を信じる、場所を信じる、お客さんを信じることが大事になってくるんです。
90年を超える歴史に加え、さらに100年経営を続けるーーそのためにはまず、自分の仕事を信じること。
平松:信じるとなった時に偽物の素材だと信じられないですよね。だから、本物の素材を使うんです。本物の素材を使うと、丁寧に掃除をし、 修繕をして長く使います。なんか、そこだなと思っています。
そして、信じると好きになるんです。銭湯を好きになる、 場所を好きになる、お客様を好きになるんです。
そして、お客様を好きになると、 お客様が好きになってくれるんです。これがすごい大事だなと思っています。
森を信じて好きになると…
吉田:そういう循環が生まれてくるんですね。森に置き換えると、森を好きになってもらうには、まずは僕たちが森を好きになり、信じることですね。
では、森を信じるとはどういうことかと考えると、すべてがクリアに見えているわけではないですが、今日のように多くの方に来て見てもらう機会を作ることも1つの形かもしれないと思っています。
東京チェンソーズでは森の価値を最大化しながら、森と街を繋いでいくことを目指しています。
そのために、森を好きになってくれる人を増やす取り組みをいろいろ行なっていますが、まずは自分たちが森を信じ、好きになることが前提。
平松:チェンソーズさんの山にはもう3、4回来てるんですけど、今日は初めて行くエリアを案内してもらいました。
何もない、ただ斜面があるだけの山に道を作っている場所でしたが、案内してくれた方がすごい目をキラキラさせて、「山に道を作るって楽しいんですよ」と。それ、すごくいいなと思いました。
平松さんが「本物の素材を、丁寧に掃除し、修繕して使うことが何より大事」とお話しされていましたが、それを森に置き換えると、きっとこういうことなのかもしれません。
森のポテンシャル
吉田:最後になりますが、平松さんから森はどう見えているのか、森の「素」と言えるようなものは何かお聞きしたいです。
平松: 原点を突き詰めた時に、人は山に行き着くと思うんです。 原点を突き詰めた時に立ち帰る場所。それが山だなと感じています。
僕らは商談する時、いろんな企業の役員や社長とも、とにかくお風呂に一緒に入ったりするわけです。
そういう普段できないコミュニケーションをすることで、繋がっていくことが実際ありました。森の場合は、森に来て話した方がいいことがいっぱいあるという印象です。
吉田:それは本当ですね。僕たちも設計士さんや内装会社の方と話すことが多々あるんですが、オンラインでスライドを見せて説明していてもなかなか伝わらないんです。
でも、1回森に来ていただいて案内すると伝わりやすい。
平松さんがお風呂に入って商談するのと同じで、森林浴じゃないですけど、森に来てもらうと、お互い「素」になって、「素」の 関係性の中で商談できるんです。
役職や会社の立場はあまり関係なく、1人1人が自分自身に立ち返ることができる場所、それが 森というフィールドが持つポテンシャルの1つなんじゃないかなと思っています。
ここ数年、東京チェンソーズのお客様が、その取引先を連れて来て、森の中で商談を始めるーーー そういったことが起きています。
これもやはり、「素」になれるという森のポテンシャルによるものかもしれません。
「素」とは「ありのまま」のこと。
ありのままを見せることが、人間どうしの良好な関係をつくるにあたって有効なことはわかっていますが、ビジネスにしろ、プライベートにしろ、それはなかなか難しいもの。
そんな「素」を出させてしまう、森と銭湯。どちらも癒しイメージですが、実は結構、「強い」ようです。
「素」の自分になりたい時、お互いが「素」になって話したい時、森へ行くという未来があるといいかもしれませんね。もちろん、銭湯でも…