2016.04.16
山の生き字引
自分の家がどこかわからない。
そんな人はいないと思いますが、こと山に関しては事情が違ってきます。自分の山がどこにあるのか、わからない。行ったことがない。よくある話しです。
林業が盛んだった時代、山主さんはこぞって山に分け入り、手塩にかけて自分の木を育てました。おのずと山の境界も明確で、先祖代々受け継いだ山は大切に管理されていました。
そして現在。代替わりや譲渡などを経た結果、少なくない山主は自分の持ち山の場所が正確にわからない状況にあります。「おじいさんがもってた山がこの辺にあるらしい」といった状態です。主たる原因は言うまでもなく材価の低迷。お金と時間をかけてまで山に手を入れるモチベーションがありません。
「山主の足跡は山の肥やし」とはよく言ったもので、まさに今の(一部の)放置された山は、肥料が枯れて痩せた山になっているといえるかもしれません。
当社はいま、事務所が所在する檜原村・時坂地区での集約化施行を目指しています。集約化と言うと難しく聞こえるかもしれませんが、要するに比較的小規模な個別の山をひとまとめに管理することです。
その集約化で、最初の作業が境界の確認です。幸いこの地区は意欲の高い山主さんが多く、ほとんどの境界は判明しています。ただ、細かい部分では不明瞭な部分が出てきたりと思い通りには進みません。そんなときに頼りになるのが、地域のお年寄りで山の生き字引のような方です。
先日訪ねたのは、我社が使わせていただいている事務所の大家さん。みんなからは親しみを込めてツーさんと呼ばせていただいています。長年、山仕事で活躍されてきました。
たまにちょくちょく様子を見に来ては、アドバイスを頂いたり、野菜をもらったり。御年80幾歳。少し耳が遠くなっただけで、受け答えはしっかりとご達者です。足腰も健在。こちらの質問にもすぐに答えていただけて、「〇〇山はあの窪まで」「あそこの平らなところはむかし畑だった」等々。自宅周辺の山はほとんど頭に入っているようで、頼りになる方です。
質問ついでに林業が盛んだったころの昔話もいろいろと聞かせていただきました。苗木を担いで植林した話しや木が儲かった時代。今でもたまに山に入るそうですが「もう身体がきつい」と何度も繰り返していたのが印象的でした。お礼を行って帰り際、ぽつりと一言。
「あと5年だな・・・」
まだやる気なのツーさん!?
生涯現役。これは僕の目標でもあります。僕もツーさんに負けず、90歳まで現役を目指して頑張ります。