2022.01.07

貧乏っぱらい

 林業という仕事につき、檜原村に住むようになって様々な土地の習俗と出会うことがある。
住んでいる小沢地区でも季節毎に様々な習わしが残っている。山仕事をするようになり、神様に頼りたくなることが多いということもあるので、このような習わしは大切に受け継いでいきたいと思う。
 その中でも今回は大晦日の夜に行う「貧乏っぱらい」を紹介したい。世間的には「晦日祓い」という名前の方が通っているので、「貧乏っぱらい」はこの地域独自の呼び名なのかもしれない。一言で表すと大晦日の夜、家を清めた後に貧乏神が入ってこないように祓い清める行為である。細かい作法は家々によって細かく変わっている。それは、他の家や他地域からの流入、その時代毎の家主の裁量などで変化しながら受け継がれているようである。それは、このような習わしごとでは普通のことなのかもしれない。

 12月も半ばを過ぎた頃、クリスマスの雰囲気を感じることもないままに我が家に神社から正月飾りのセットが届いてくる。中には割れ目が入った細い竹(直径8mm長さ35cmほど)と御幣が7組、これは神棚や荒神、水回り、物置などに供えるもの。その他に正月飾り用の注連縄に使う紙垂のセット。その他に1本さらに小ぶりな竹(直径6mm長さ30cmほど)とやはり小さめの御幣が入っていて、これがまさに「貧乏っぱらい」に使われる大事な1組となっている。
いつもはよくわからない中で、見よう見まねでやっていたのだが、今年は近所に住む山の大先輩に教わる機会を得て、しっかりと行うことができた。やはりこのような習わしは地元の古老にお聞きするのが間違いない。
 我が家では、年末最後の週末に大掃除は済ませていたが、「貧乏っぱらい」は大晦日の夕方に再度家全体を掃除し直し、まずは家をしっかりと清めることから始まる。
その後、神棚を御幣で祓ったのちに、家の屋根裏部屋から2階、1階と各所余すことなく祓っていく。その時には「貧乏神追い出せ!福の神舞い込め!」と掛け声をかけながら行う。なんとなく節分に似ている。

貧乏っぱらい中

このように家の隅々を祓っていく

 

 家の中全て終わると、今度は家の外に出て周囲を祓ったのちに、家の庭先に幣串を刺す。本来は祓って邪気のついた幣串を鬼門除けとして家の庭の北東である鬼門に刺すとよいそうだが、我が家の庭は東が角で棘の付いた柚子と山椒の木が植わっているので、その根元に刺すことにした。

棘のある柚子と山椒の根元にそっと刺す

道端でも見かけることがあるのでは。



 これまで、このような伝統的な習わしは、勝手なことをして形無しにしてしまうことを恐れてしまい、行うことを躊躇してしまうことも多かった。しかし、相談した大先輩曰く、年神様を迎えることを自分なりに楽しみながら自由にやればいいのさと言ってくださり、気持ちがだいぶ軽くなった。合わせて門松についてもご教授いただき、今年は檜を2本立て紙垂をつけた縄を張り、庭先に仕立てることにした。ちなみに、大先輩のご自宅は柃を使っていたので、同じように真似をしようと思ったが、状態のいい柃が見つからなかったので今回は檜にした。なかなか上等な正月飾りだとお褒めの言葉をいただけた。檜原村では正月飾りとして門松や正月飾りに松を使わない家が多いことも特徴なので、このあたりのことはまた年末か年明けに機会があればお話しできればと思う。松の内最終日に失礼しました。 

檜の門松

柃ではなく檜を使った門松

この日記を書いた人

青木 亮輔

青木 亮輔

1976年生まれ。大阪府此花区出身。東京農業大学林学科卒。1年間の会社勤めの後、「地下足袋を履いた仕事がしたい」「後継者不足の林業なら自分にも活躍の場があるのでは」と、林業の世界へ。

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