吉田 尚樹インタビュー
材料調達の仕事の醍醐味は、
木材を通じて、世の中の価値観が変わって行く“現場”に立つこと。
材料調達は社内の林業部門と販売部門の中間に立ち、両者を結ぶポジション。「現場から出た原木に新たな価値を付けて販売する、東京チェンソーズにとってはなくてはならない仕事」だ。木材を通して、森と街を結ぶ仕事の“面白み”とは…
林業部門と販売部門を結ぶポジション
―材料調達とはどんな仕事なんでしょう?
東京チェンソーズは、山で木を伐り、出してきて、原木市場に丸太として出荷するという従来の林業に加え、原木を加工して、付加価値をつけて売るということをしています。
そうするにあたって、社内の林業部門と販売部門を結んで木材を調達するというポジションが必要になってくるんです。それが材料調達です。
材料調達には大きく2つのパターンがあります。1つは社内で管理・施業している山から出てくる原木を調達すること。もう1つは、社内で賄えない分や規格が特殊なものを近隣の製材所や材木屋さんから購入することです。
―社内調達する際の仕事の進め方を教えてください。
まず初めに、木の搬出をする林業チームと話して、いつ、どの山から、どのくらいの量が出てくるのかを聞いて調達の計画を立てます。
―計画を立てた後は、搬出する現場にも行くんですか?
木を伐り始めたあとくらいに行きます。ある程度伐ってからでないと品質やサイズ感など分かりかねるところがあるので、そのタイミングになります。
そこで現場の担当者と話して、樹種や用途別に仕入れる量を決めます。
伐採後、現場の担当者を交え、丸太の品質やサイズ感を見ながら仕入れ量などを決める
―現場から仕入れた丸太はどうしますか?
理想はそのまま製材所に持って行き、挽いてもらうことなんです。が、製材所の都合もあるのでそうも行かず、ある程度は原木として保管することもあります。
―製材方法はこちらで指定するんですか?
そうですね、このサイズの板がほしい、というような感じで伝えます。そうすると、丸太の歩留まりを考えて一番効率いい形で引いてくれます。
もちろん、枚数が決まってる時は枚数も伝えます。
製材所から戻ってきた木材の在庫管理や加工・販売部門との調整も
製材所で挽いてもらった木材は天然乾燥させます。ものによっては2〜3ヶ月で乾くこともありますが、構造材になると1年以上かかることもあります。
ただ、お客さんによっては1ヶ月後に納品してほしいというケースもあるので、その場合は天然乾燥では間に合わないので、乾燥炉を使って乾燥させることになります。
―乾燥の後は?
製材品として納品することもありますし、工房へ運んで什器などに加工して納品することもあります。自社製品に加工してオンラインストアやポップアップショップで販売もしています。
社内・社外と良い関係を築き「1本まるごと販売」の素材も調達
―調達する木材は、ここまで話した製材品以外にもありますよね?
「1本まるごと販売」というコンセプトのもと、普通では使わない部分も活かした加工・販売をしているので、枝や葉っぱ、作業道を作る中で出てくる根っこ、形状が変わってるものなど、イレギュラーなものも仕入れています。製材所から出る樹皮やバタもそうですね。
大きく二又に分かれたケヤキ。一般的な製材品に向かないような形状の木も仕入れる
―それらの調達はどんなふうに進めるんでしょう?
製材品と同じで林業現場と調整して、現場に見に行って調達します。
でも、それ以外にも現場の方から、原木市場には出さないような変わった形の木がありますが使いますか、と写真を送ってきてくれたりもするんです。
―それはいいですね。外部から買うこともあるんですか?
ありますね。製材所や木材関係の人たちといつもコミュニケーションを取っているので、そのつながりの中で、「1本まるごと」のことを知ってもらっていて、普通ならボイラーの燃料になるようなものも、ちょっと形が面白かったりすると「これほしい?」みたいな感じでいろいろ紹介していただけます。
―製材所では商品にならないようなものが出てきたとしても、チェンソーズなら使うだろうということですね。
そうです。「1本まるごと」の考え方が社内はもとより、社外の製材所の人などにも伝染していて、面白いですね。
世の中の価値観が変わって行く、その“現場”に立つ仕事
―材料調達の仕事の面白みを教えてください。
現場で調達した木材を商業施設など、みなさんの目に触れやすいところにもどんどん提案して売って行くんですよ、もうこんな面白いことはないですね。
―確かにそうです。森と街を最もダイレクトにつなぐポジションですよね。こうした業務はいつ頃から始めたんですか?
4年くらい前からですかね…。現場をやりながら、電話に出て、いまこんな材料がありますみたいな話をしながら、素材の提案を始めました。その中で作業道を作っているときに出てくる、根っこを売るという案件があったんです。
―根っこですか?
現場で作業道を作っていて、毎回出てくる根っこを目にして、どうにかして使わなきゃとずっと思ってました。それであるとき試しに根っこの樹皮を剥いたらすごく綺麗なんです。
これをどこかの企業に提案したとき、使いたいと言ってくれる人がいて、これは可能性しかないなと思いました。
―なるほど。
根っこに限らずですが、山に眠ってるあの不思議なものたちを、どう世の中に出して行くのか…。材料調達は、木の形状や機能、雰囲気をお客さんに伝えながら、お客さんがほしいと思ったものを考え提案する仕事です。
木材にそれまでなかった新たな価値をつけることで、ひいては森に価値をつけることにもなる仕事だと思っています。
既製品じゃないから絶対一発では上手くいかないですけど、今まで価値がないと思われてたものを意外と面白いと思ってくれる人がいるということに続けていて気付きました。
あるデザイナーさんは木や森、林業のことを知って、木は単なるテクスチャーや素材ではない、これからはここで知った背景を含めてデザインしていくとお話しされました。
こういう世の中の価値観が変わっていく、その場所にいるんですよ。これこそが材料調達の仕事の醍醐味ですね。
林業と販売、両方の現場のバランスを取ることが必要
―木材を調達するにあたって難しいところは何でしょう?
山から出てくる量が、出たとこ勝負なところがあることですね。
自社の社有林のように計画を立てて施業できる山が半分以下で、半分以上が入札など自分たちがコントロールできない山林での施業になっていることもあり、出てくる量の計画が立てにくいんです。
そうした供給量が不安定な中で、どれくらい買うかを決めていかなければならないところですね。
―なるほど…
あと、販売の立場で木材がほしかったとしても、搬出する現場がない。逆に現場があっても、販売でいらないというときがあることです。
そうしたミスマッチが起きているのが現状なんですが、あまりひどくならないよう、そのバランスを取ることが必要ですね。
大事なことは山の現場の目線を持っていること
面白いことがもう一つあって、それは価格の付け方なんです。前例がない、相場がないので、買い手も売り手も正解が分からないんです。
そんな中でもちゃんと山に帰ってくる値段で売らなければならないので、そのへんの取引先とのやりとりなんかも面白いですね。
―ちなみに買う側からはどんなオーダーをされるんですか?
例えばベンチなら、座る機能のものが欲しいけど何かありますか、見せる外壁として使いたいけど何かありますかのような、割とざっくりが多いです。
そういうとき、根っこや角材などそのときあるもので考えて、加工するとこうなる、色を塗るとこうなるなどお伝えして、お客さんに選んでいただきます。
―山にあるものが頭に入ってるからこそですね。
お客さんから、よく林業会社ならではの面白いものをとリクエストをいただきますが、それは現場で作業をしてるから気が付くんものなんです。常にそうした現場の目線を持って仕事したいですね。
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木材が搬出される林業の現場と加工、販売を結ぶ材料調達。販売先への提案を含め、社内・外と良好な関係を保ちつつ、木材や森に新たな価値を持たせる仕事。
木を通じて森と街の共生を目指す東京チェンソーズにとって、材料調達はなくてはならないポジションだ。
東京チェンソーズに入社したのはなぜ? 仕事での楽しみは? 林業現場で活躍するメンバーと、伐った木を活かす担当の工房長にもお話を聞きました!