塚本 壮二インタビュー
普段、木や森に親しむ機会の少ない人に“森”を届ける、東京チェンソーズの街と森をつなぐ取り組みの最前線に位置する事業です。
2022年にはその活動が評価され、ウッドデザイン賞優秀賞(林野庁長官賞)を受賞しました。
森デリバリー事業を担当する先輩社員・塚本壮二に仕事の意義、喜び、仕事の流れなどを聞きました。
1985年神奈川県生まれ。お酒の輸入商社〜小売店勤務から2021年、東京チェンソーズへ転職。森デリバリーを担当するほか、弊社唯一のリアル店舗「くるちょい」(檜原森のおもちゃ美術館ミュージアムショップ)店長も務めます。「山も海も人も大切に!」がモットー。
森デリバリーは「街と森をつなぐ最前線」の仕事
―森デリバリーはどんな仕事ですか?
都心に行けば行くほど、森とのつながりが感じにくくなっているようですが、ワークショップや販売を通じて、両者のつながりを改めてお伝えする仕事です。
ー伝えるとき、心がけていることはありますか?
まずは自分たちについて、檜原村で林業という仕事にをしている”きこり”だよということを伝えるようにしています。
ーきこり、林業という言葉、伝わりますか?
知らない子が多いですね。なので、木を伐って、植えて…という仕事の説明をして、それが実はみんなの暮らしにつながってるんだよと。
ー身近な暮らしの先にきこりの仕事があると…
そうですね。そこは大事なところかなと思っています。
―ところで、森とのつながりを持ちたいと思っている方は多いのでしょうか?
ワークショップに参加してくれる方は、森が足りてないことを何かしら感じて、身近で木に触れる機会をつくりたいと感じている方が多いように思います。
身内や周囲に材木屋さん、大工さんがいたという方が参加されることもあって、木の香りを懐かしんでくれたりしますが、実際に林業をやっている人の話を聞くことはなかったと、とても喜んでくれます。
―森について特に意識していなかった方もいらっしゃると思いますが?
普段は特に森のことを意識しているわけではなく、たまたま参加したという方もいらっしゃいます。それでも水道の水がどこから来ているかという話をすると、あ〜そうかと。
―水は身近なものですが、普段あまり意識するものではないですからね。
はい、森はその根源に僕らが生きるにあたって絶対に必要な水、それから空気を作るという大事な役目を持っているんですが、どちらもあるのが当たり前な感じがして、意識しないことが多いですね。
商業施設でのイベント出店に加え、幼稚園・保育園の木育サポートも
―実際の仕事の流れについて教えてください。どういう経緯で始まることが多いですか?
最近は自然に目を向ける方が多くなったこともあり、木に関わるワークショップをやりたいとお声がけいただく機会が増えています。
―その後、打ち合わせを重ねて準備を進めていく流れですか?
そうですね、打ち合わせで日程や会場、ワークショップのメニューを決めます。
―メニューはどうやって決めるのですか?
お客様からのリクエストもあるのでそれも考慮しつつ、参加対象の子どもの年齢層に応じて、楽しんでもらえる内容をこちらから提案して決めるのが基本です。
―準備はどのようなことをしますか?
いろいろありますが、大事なのはワークショップ資材の確保です。スプーンの場合は在庫を確認し、なければ製造依頼。丸太切りだったら、林業チームと調整して丸太を手配します。
―典型的な1日の流れを教えてください。
開始1時間前に入ることが多いので、会場が昭島や立川など西多摩エリアの場合だと、8時に出て9時入りとかですね。物販があればもう少し早めに着くようにすることもあります。大体10時、11時から開始して、お昼を挟んで午後は5時くらいまで。その後撤収です。
―片付けも当日行いますか?
帰ってからの場合もありますし、次の朝ということもあります。
―幼稚園・保育園の場合はいかがでしょう?
朝はほぼ一緒ですが、午前中で終わることが多いですね。
継続して応援してくれる“森デリファン”の存在がうれしい
―参加される方の反応はいかがでしょう?
参加者が少ないときに参加してくれた親子がいたんですが、こんな話を普通聞くことはないから、親子で参加してよかったと会社にわざわざ連絡をくれたことがありました。
それだけでなく、その後も3年くらい続けて、自分がまだ参加していないメニューを探して、3ヶ月に1回くらいはどこかのワークショップに参加してくれたということがありました。
―それはうれしいですね!
ワークショップの時は意識してゆっくり話すんですが、それが良かったようです。周りがせかせかした中で、ゆっくり森の話が聞けたと。
あと、子どもに話しつつ、親にも話すことを意識しています。子どもに分かりやすいよう優しく話したあと、大人に目線を変えて話すんです。例えば、子どもには日本は世界で三番目に森が多い国なんだよと話したあと、親には国の2/3が森なんですよ、東京都は4割くらいが森なんですよと話したり…。
―そういう話し方はだんだんできるようになったんですか?
森デリバリーをやりながら覚えたスキルかもしれないですね。
―ほかに意識することはありますか?
林業の話は一つの世代では完結しないんです。
親世代、子ども世代だけが理解したからうまくいくわけじゃない。やはり50年、60年、70年かかる林業だから、その場にいる親子の両方が一緒に考えることが大切なので、意識的に双方に向けて話をしています。
ー今後はどんなふうに発展させていければと思っていますか?
身の回りから自然を考えてもらえればいいなと思っていて、商業施設、幼稚園・保育園に加えて、公園や雑木林など、暮らしに身近な自然を舞台にできたらと考えています。
ー森デリバリーの仕事はどんな人が向いてるように思いますか?
自然が好きはもちろんですが、参加者は子どもが多いですから、その対応が苦手じゃない人。それに加えて、固定観念にとらわれない人ですかね。仕事を進める中で、いろいろなお話を聞きますから、それを吸収して、いい意味で自分の価値観を更新して仕事に反映できる人が向いているかなと思います。
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普段の暮らしに関わる水や空気といった身近な話題で、森とのつながりを感じさせる森デリバリー。
もちろん、木のスプーンづくりなどのワークショップを通じて、木の香り、手触りなどを体感することもできます。
街に“森”を届け、そこに暮らす人の“森への入り口”の役目を担う、まさに、「街と森をつなぐ最前線」です。
最後になりますが、塚本自身の転職にまつわるお話を…
もともとは海派で、休日は海に行くことが多かったそうですが、ある時、子どもとの会話をきっかけに、休みの日だけ自然に関わって元気をもらうだけでいいのか?と自分の中に疑問が生まれたそう。考えを深める中で、海の自然を形作るのは山だと思い、それが大きな動機になったといいます。
もうひとつ、取り留めのない感じですが、これも転職する気持ちを後押ししたかもと話してくれました。
前職で日本酒の蔵元を訪ねたとき、お酒の原料になるお米を作る田んぼを案内されたそうで、そこで見た風景に身近な自然の美しさを感じたといいます。
「田んぼは泥と水があって稲が生えているイメージでしたが、そこは田んぼの中に草がいっぱい生えていて、カエルがぴょこぴょこしていました。カモがそれを追いかけたり…。ともかく田んぼの中が緑でいっぱいで、それがとても美しいと思いました」。
森デリバリーについては、こちらの弊社note記事もご参考にしてみてください。
「木に触れ、森と街の関係を考えるきっかけをつくる〜森デリバリー〜」
「木育に取り組んだ保育園で、子どもたちが変わり、周りの大人も変わっていった」