2022.09.27
第75回 枝を吊るすことで「木に包まれている感じ」をデザイン(事例紹介)
これまで何度か紹介してきた広葉樹の枝。枝の広がりが空間に“森感”を醸し出すようで…
今回はその使用事例をお届けします。
空間デザインブランドparkERsのデザイナー・前田藍さんにお話を伺いました。
―日本橋に新築されたビルの空間デザインを手掛けられたそうですね?
そうなんです。
―どういうものなんですか?
お客さまから「KITOKI」という新築ビルを作るので、その中にバイオフィリックデザインを使ったセットアップオフィスを作ってほしいという依頼をいただきました。
ビル自体、秋田県にある森と連携した木造の建物で、床も天井も木なんですよ。その中の2階、4階、7階のセットアップオフィスの内装デザイン、植栽計画・施工、屋上の空間設計、ビル全体の緑化のデザイン監修を担当しました。
※ バイオフィリックデザイン:植物など自然の素材を使って、心地良い空間を作るデザイン手法
※ セットアップオフィス:内装付きで貸し出すオフィス
―デザインをする上でとくに注意したことはありますか?
自然の中にいるような居心地の良さはもちろん意識しますが、オフィスなので、働きやすいこと、それから、働き方というものに気を付けました。
―というと…
フロアごとに風や水、木といったテーマを設定していまして、例えば、植物の下に人が集まりチームで働きやすいフロアや、水の音がすることで、あまり他の人が気にならず1人で自由に働きやすいフロアなどさまざまな働き方をイメージして、デザインしました。
―入居者はそういうところも見て決めるんですね?
そうですね。自分の会社にあった席、レイアウトを選んで決めることができます。
―弊社からはケヤキの枝を提供いたしました。どのようにお使いいただいたのでしょうか?
「木を感じるフロア」をテーマにした7階で、天井から吊るして使いました。
―木がテーマなんですね。
家具や床など、いろいろな樹種の木を使って、全体で木を感じるようデザインしたフロアです。
―枝を天井から吊るすことで、どういう効果を狙ったんですか?
私たちは席を考えるときに、自分がどの席に座っても心地良くなることを考えるんです。
ここは近くに大きな窓があって、そこからの採光があり、葉ぶりが面白いベンジャミンがメープルの天板に影を落とします。
座ったときに、森の中にいるように自分の頭の上にも枝があることで、包まれているような感じを出したいと思いました。
―なるほど。木々に囲まれているような。
そうです、そうです。
―ケヤキの枝を用いた理由は?
今回は樹種としてのケヤキがよくて選んだということではないんです。
―そうなんですね。
ここのメープルのロングテーブルの天板が厚み70mmくらいと迫力あるものなので、それとのコントラストを考えたときに、バランスが取れて、ちょっとシンプルなものということで選びました。
フロア全体で、より木をダイナミックに感じられるようにと考えています。
―ここはもう入居してる会社があるんですよね?
そうなんです。7Fは入居の連絡を一番初めにいただいたと聞いています。
入ったときにすごい木の匂いを感じるんですよ。お引き渡しのときに、ずらりとお客さまがいらして下の階から見て回ったんですが、7階は特に人気でした。
すごい香りが良くて、ここで過ごしたいなという感想もいただきました。
―弊社の素材をどう思いますか?
本物の木材はそれなりに金額もしますし、なかなか気軽に取り入れられないという中で、こういう枝だったり、ウッドチップだったり、根っこだったり、いろいろあって…
天板だけじゃなくて、木を余すことなく全部使うために、さまざまな種類の部材があって、とにかく面白いと思っています。
―ところでさっきまで、山に行ってたんですよね?
行きました。はい。
―どうでした?
こういう場所から材を取ってきたんだということが分かって良かったです。実際に歩いてお話を聞くことで山のことがいろいろとリアルに感じられて、来て良かったです。
それに景色がすぐ変わりますよね、山の中って。日差しの強い弱いで、めちゃくちゃ違って見える面白さ。豊かだなと思いました。
―山で見て気になったものはありました?
石 笑
―石ですか。でもそれも山の素材です 笑
なんていうんですかね、木は重要なんですけど、木だけだと山の感じが作れない。
―たしかに。
石や岩の上を水が流れてたりとか、そういう表情も素敵だなと思います。
あとは木漏れ日ですね。人工的な光で作れるものは、日光とは絶対に別ものじゃないですか。だから、室内のデザインをしている中で、リアルに木や植物を使うなら、照明も常に考えないと。
本物の木漏れ日を見ると思いますよね。
■素材データ
サイズ:長さ:約2000mm、幅:約900mm、奥行き:約300mm〜400mm
樹種:ケヤキ
(取材後記)
始終笑顔で応えてくれた前田さん、最後にはこんな嬉しいひとことも。
「ニュースレターで発信してくれてるような、面白いと思ったけど何に使えるか分からないみたいな、そういう提案を発信してくださることで、自分の頭の中だけでできないことが、できるような気がしてきます」。
ありがとうございました!(木田)
この日記を書いた人
木田 正人
木田 正人
1966年生まれ。青森県弘前市出身。日本大学農獣医学部卒。雑誌記者など出版界勤務後、「人のため、地球のための仕事」をしたいと思い、林業を志す。東京チェンソーズ設立当初から森林整備と広報を担当。