2021.12.07
第44回 100年生きて、その後30年間立ち枯れていたヒノキ
コナラやシデ類などの広葉樹が広がるなかに、針葉樹が点在する八王子市のある現場。間伐して明るくなった森の一角に、佇む1本の立ち枯れ木…今回は少々マニアックな伐採のお話。
林業事業部・飯塚に聞きました。
―これ、枯れたヒノキですね? 枯れてからどのくらい経ってるんでしょうか?
どれくらいですかね…
―植えたのは、ほかの針葉樹と同じですよね?
おそらく。
―ということは、およそ130年前に植えられた。
そう。なので、年輪数えてみればいつ枯れたか逆算できます。楽しみです。
―枝が普通よりもけっこう残ってますね。
そうですね。ヒノキ、サワラは枯れても枝が残りますけど、こんなに多いのはあまり見ないですね。
―さて、どこに倒しますか?
斜面の上側狙います。
地面に勢いよく倒すと枝が折れてしまうので、ワイヤーを張っておいて、そこに引っ掛けるように倒します。
―伐るとき何に気を付けますか?
枝を折らないように 笑
これ、枝を折らなかったらすごい。
伐りますよ。
(チェンソー始動)
ここから伐採が始まります(上の写真をご参考に)。
基本はこうです。まず、①倒す方向に向け、受け口を開けます(木の右側の三角形に切り取った部分)。②次いでその反対(左側)を一直線に切る(追い口)。③追い口にクサビを差し込み、ハンマーで叩く。④クサビが押し込まれることで、木の重心が変わり、倒れる。
今回は枝が折れないよう、ゆっくり倒したいという特別な状況に合わせ、①の受け口を通常より大きく開け(オープンフェイスといいます)、また、②の追い口の切り込みを浅くし、クサビの使用を通常より多めにしています。
(様子を伺いつつ慎重に伐り進め、1分30秒経過)
※ 伐倒方向へ重心を変えること
―起きますか?
軽いから、行けると思う。
(クサビを打つ。「かんかん」と甲高い音が響く)
乾いてるからか、堅くてクサビが入りにくい。
(ふたたびチェンソー始動)
(様子を確かめつつ40秒経過)
(クサビを打つ)
お。起きた。いい感じ。
でも、乾燥してるから粘り※がなさそう…
※ 引きちぎれることを防ぐ力
(クサビを打つ音が響く)
(40秒経過)
お〜。
のこぎりでもう少しだけ、ちょっと切れば倒れそう…
(ふたたびクサビを打つ)
(40秒経過)
あ〜!
お〜!
―さすが。うまく倒れました。
これまでで一番難しかった 笑
―重いですか?
重くはないです。持てる、持てる。
―ところで、どうして立ち枯れてしまったんでしょう?
なんらかの原因で周りの木が先に大きくなって、当たる日光が少なかったのかも。
ーからからに乾燥してますね。
そうです。だから、すぐ使えますよ。
僕はね、枯れ木好きなんです。枯れ木推し。これ以上、不朽しないのが魅力です。
構造材に使うという可能性もあるんじゃないかと思ってます。角に挽かずそのまま使ってら面白そうです。
あと、多様性の面でも注目されてますね。枯死してからもいろいろな生物に利用されてるんですよ。生物多様性の高い老齢林には、立ち枯れ木が多いといいます。
枯れ木はこれからの新しい林業に繋がる気がしますよ。
■素材データ
サイズ:長さ:6000mm、直径:160mm
状態:乾燥(立ち枯れ)
樹種:ヒノキ:
伐採時期:2021年11月
重量:10kg
(取材後記)
後日、飯塚が年輪を数えると78あったとのこと。すでに朽ちたであろう辺材部分が20年ほどと仮定すると、およそ100年まで生きたと考えられます。となりに生えていた木が約130年生だったそうなので、同時に植えられたとすると、30年前に100歳で枯れたと…
あくまでも推測です。
この木はこのあと檜原へ運ばれ、木材として活用されるのを待ちます。そのお話はまた後日(木田)。
この日記を書いた人
木田 正人
木田 正人
1966年生まれ。青森県弘前市出身。日本大学農獣医学部卒。雑誌記者など出版界勤務後、「人のため、地球のための仕事」をしたいと思い、林業を志す。東京チェンソーズ設立当初から森林整備と広報を担当。